犬のムダ吠えをやめさせる方法

 

ある犬の訓練クラスでボーダーコリーのボビーが他の犬に向かって吠え出しました。

飼い主は大声で吠えるのをヤメるように言いましたが、ボビーは飼い主の大声を応援と受け取りますます吠え始めました。

騒ぎは大きくなるいっぽうで、クラスに居合わせた人たちは、どうしたものかと顔を見合わせるばかりでした。

このとき指導員のジョージが収拾に乗り出しました。彼は犬の習性について少しばかり知識があるらしく、騒ぎをおさめるために高圧的な威嚇行動をとることにしたのです。

そして犬を静かにさせるために、責めるような目つきで犬をじっとにらみつけました。ボビーの耳は服従を示してうしろに伏せられ、体を低くして相手の威嚇を認めた。吠え声はやみました。

だがあいにく静けさは長く続かなかったのです。ジョージが目をそらせたとたん、ボビーがまた吠え始めたのです。

ジョージは腹を立てたようでした。彼は吠え声を意思の伝達と考えるかわりに、訓練と矯正が必要な「状況」として捉えたのです。

ジョージは今度は犬を自分の左脇に坐らせ。ボビーが吠えた瞬間、ジョージの右手が素早くボビーの顎の下を打ち、パシッという音とともに一瞬犬の口が閉じました。

この場面は何度か繰り返されました。吠える、パシッ! 静寂・・・吠える、パシッ! 静寂。

ボビーがふたたび静かになったとき、ジョージは指導員の席に戻りました。もちろんジョージが遠ざかったとたんに、ボビーはまた吠え始めたのです。

犬に吠えるのをやめさせる方法は、これまで数々試されてきました。

私が見た例では、水鉄砲、レモンジューススプーレー、口輪、粘着テープ、ガラガラ音をたてる缶、電気ショック首輪などが使われました。

なかには有効なものもありますが、大半は効果がない。効き目がある場合も残酷になりがちで、犬と飼い主のあいだの関係がそこなわれかねません。

犬が吠えるのは、群れにかかわることがらについて伝えるため。危険を感じとって仲間に警告を発する場合も、群れの領域に何かが侵入したのを察知し、家を守らねばと吠える場合もあります。

原因は何であれ、犬は愛するものたちのために反応しているのです。その献身的な行為にたいして、暴力で報いられたときの犬の気持ちを想像してほしいです。

家から煙が出ているのを見つけて、避難するよう友人に忠告したとたん、「うるさい」といきなり顔を殴られるようなものです。

そのような乱暴な行為は、その後の関係に傷をつけます。しかもこの暴力的な「矯正」は、短期的な問題解決にしかなりません。

しかし、犬の意思伝達パターンを理解していれば、問題は容易に解決できます。

あまり吠え声をたてない野生の犬族も、子供のときは吠えます。安全な巣穴のあたりでは、吠え声をたててもそれほど害はない。

だが、子供が成長しておとなたちの狩りに同行するようになると、吠え声は逆効果になる。間のわるいときに若い狼が吠えると、獲物に悟られてしまう。また、狼の肉の味を覚えた大型捕食動物の注意を引きつけるかもしれません。

それを食い止めるために、進化はかんたんな意思伝達信号を発達させました。

その第一の目的は音を出させないことだから、その信号には大きな音は含まれない。

狼はべつの狼を黙らせるとき、吠え声は使わないのです。

また、その信号には声をたてた個体にたいする直接的な攻撃も含まれません。吠えている個体に噛みつけば、痛がって悲鳴をあげたり、唸ったり、攻撃に反応して走り出したりするでしょう。

そんな騒がしい音や気配は、吠え声と同じほどほかの動物の注意を引いてしまいます。

そこで、吠え声をやめさせるときは、自然に音や肉体的な攻撃をともなわない方法がとられるようになりました。

吠えるのをやめさせるときに野生の犬族がとる方法は、いたって単純です。

黙れという信号を発するのは、群れのリーダー、子犬の母親、あるいは群れでその個体より明らかに順位の高い犬です。

優位の犬は吠えている子犬の鼻面を、牙をたてないようにしてくわえ、低くてかすれた短い唸り声をあげる。低い唸り声は遠くまで届かず、しかも一瞬で終わる。

相手は鼻面をくわえられても痛みは感じないので、悲鳴をあげたり逃げ出そうとしたりすることはありません。

これでたいていすぐに静かになります。

人間もこの行動を真似て、かんたんに犬を黙らせることができます。

犬をあなたの左側に坐らせ、犬の背中のところであなたの左手指を首輪の下にすべり込ませます。

左手で首輪をつかみながら、右手で犬の鼻面を包むようにして押し下げる。

落ちついた事務的な声で、「静かに」と言います。

必要なときは、この動作を繰り返します。

犬種によっては二回から十回程度の繰り返しで、「静かに」という命令と黙ることとを結びつけられるようになります。

このやり方は、群れのリーダーが騒がしい子犬や若いメンバーを黙らせる方法をなぞっています。

左手で首輪をつかむのは、たんに犬の頭を固定させるため。

右手はリーダーが子犬の鼻面をくわえるのと同じ働きをする。

落ちついた声で「静かに」と言うのは、低くてかすれた短い唸り声を真似たもの。

 

服従訓練クラスで吠えていたボーダー・コリーに話を戻します。

ボビーは完全に歯止めのきかない吠え方モードに入っていました。

私は前述の方法を使い、低い声で「静かに」と言いました。この動作を三回繰り返しただけで、ボビーはそれ以上吠えなくなったのです。

あとでハンドラーから聞いたところでは、一週間のうちに、冷静な低い声で「静かに」と言っただけでボビーはは吠えるのをやめるようになったそうです。

しかし、吠えるのをやめさせるこの方法は、公共の場所などで、吠え声が迷惑になる場合にかぎって使うように心がけたいです。

私たち人間が吠える犬を選択交配してきたのを、忘れてはなりません。

よそ者の接近に気づいて、犬が警告の吠え声をあげたときは、たとえそれが窓の外に猫が見えたからであっても、黙らせないほうが良いでしょう。

吠えた原因がわからないときは、ただ犬をそばに呼んで、軽くなでたりさすったりしてやる。

犬は吠えることで、何千年も前に私たちの先祖から課された仕事を実行しているのですから。

『犬語の話し方』スタンレー・コレン著より引用

 

我が家にも初めて来る人に凶悪な大声で吠えて威嚇するココという犬が居ます。

ココとしては正しい仕事をしているのでしょうけれど、吠えられている相手が犬嫌いの場合はドキドキでしょう。

場合によってはこの方法を試してみる必要がありそうです。

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吠える犬がいる。

それだけで防犯に役立ってくれているはず。

そんな可愛い相棒にどうぞ。

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