学者の中には、『犬は人間のような愛情を感じない。褒美をもらえる、褒めてもらえるから愛想を振りまくのだ。』
このように考える人も多く居ます。
しかし、たいていの飼い主は、犬が人をたしかに「愛する」ことを知っています。その例として、ニューヨーク州ロチェスターに近いフィンガー湖に住むロッキーとリタの物語をご紹介しましょう。
ロッキーは栗色に胸は鮮やかな白というボクサー特有の毛色をもつ、体重29.5キロのたくましい犬だった。当時ロッキーは3歳、その友だちのリタは11歳。
ロッキーは生後10週間のときにリタのもとに届けられ、リタはたちまち彼と仲良しになった。
彼をなでてやり、手から食べさせ、基本的なしつけを教え、自分のベッドで寝かせた。
彼女はロッキーを世界一ハンサムな犬だと思い、雨で外に出られない日は彼に帽子やネクタイやスカーフを着けさせ、さまざまなポーズをとらせて絵に描いた。
学校に行かない日には、おたがいに手の届く距離で一緒にすごした。
家族はこのふたりに、「R&R」とあだ名をつけた。
リタはどちらかというと弱虫で内気な少女だったので、成長するにつれロッキーがいわば彼女のガード役になった。
ロッキーがそばにいれば、リタは知らない人や知らない場所も恐くなかった。
ロッキーは彼女の一番の親友であると同時に、頼もしい護衛でもあった。
知らない人と出会ったときは、ロッキーかっとリタの前に出てガードした。
彼は恐いもの知らずのようだった。
あるときリタが店に入ろうとしたとき、暴走族ふうの二人の大柄な男が、なにか叫びながら店から飛び出してリタを突き飛ばしかけた。
するとたちまちロッキーが身を乗り出し、おびえる少女と2人の男のあいだに立ちはだかって四肢を踏ん張り、低い威嚇の唸り声をあげた。
その勢いに恐れをなして男たちは身を引き、少女とその護衛から遠ざかった。
だが、そんな強面のロッキーにも弱点が一つあった。水に対する、病的なまでの恐怖心である。
ボクサーは、一般に泳ぎが得意ではなく水が苦手だが、ロッキーの恐怖心は、子犬時代に植えつけられたものだった。
彼は生後7週間のときある家族に売られだのだが、その家には情緒障害をもつ10代の少年がいた。
彼は新しくきた子犬に家族の関心を奪われ、自分がないがしろにされたと思い込んだ。
妬みと怒りから、彼は子犬を枕カバーにつめ込んでカバーの口を縛り、湖に投げ込んだ。
さいわい父親がそれを見ていたため、子犬が溺れる前に救い出すことができた。父親は少年を叱りつけ、家にもどった。
その翌日、少年がまたしても膝の高さまで湖に入り、もがき苦しむ子犬を水中に浸けて溺れさせようとしているのを両親が目撃し、愕然とした。
このとき助けられたロッキーは、安全のためブリーダーに返却された。
この子犬時代のトラウマが原因で、ロッキーは水には心底恐怖を抱くようになったのだ。
彼は水のある場所を見ると、不安そうに後ずさりした。
リタが湖に泳ぎにいくと、彼は震えながら鼻声をたて、岸辺をいったりきたりした。リタからじっと目を離さず、彼女が乾いた場所に戻るまで緊張し続けた。
ある日、リタの母親がR&Rを湖沿いにある高級ショッピングモールヘ連れていった。
湖の岸沿いには水面から6メートルから9メートルの高さで突き出した土手の上に、幅のせまい板張りの道が作られていた。
リタが板張りの道をカタカタ踏み鳴らしながら楽しげに歩いていたとき、向かい側からきた少年の自転車が濡れた板の上で滑ってリタにぶつかり、ガードレールの下部に開いている隙間へ突き飛ばした。
彼女は痛みと恐怖で悲鳴をあげながら湖へとまっさかさまに落下し、うつ伏せ状態で水面に浮かんだ。
30メートル離れた店の入り口にいたリタの母親はガードレールまで走り、『誰か助けて!』と叫んだ。
ロッキーはすでにその場で水面を見下ろし、恐怖で震えながら吠え声とクーンという鼻声、キャンという悲鳴が入り混じった声をあげていた。
このとき水を眺めた犬の中で、どんな気持ちが駆けめぐっていたか、私たちには知るよしもない。
水は、彼の命を2度も奪おうとした最高に恐ろしいものだ。その恐ろしい水がいま、自分の小さなご主人を傷つけようとしている。
どんな考えをめぐらせたにせよ、彼のリタヘの愛情は恐怖心にまさった。
ロッキーは同じガードレールの隙間から、水中に飛び込んだ。
ありがたいことに犬の遺伝子には、練習なしに泳げる能力が組み込まれている。
ロッキーはたちまちリタのそばまでいき、ドレスの肩紐くわえた。おかげでリタの体がくるりとまわって顔が上向きになり、彼女は咳と一緒に水を吐き出した。
朦朧とした意識の中で、彼女は手をのばしてロッキーの首輪をつかんだ。犬は岸へ向かって必死で泳ぎはじめた。幸い岸までの距離はさほどなかった。
数分の間にロッキーは足で立てる浅瀬まで到達した。彼は力のかぎりリタの体を引きずって、彼女の頭が完全に水の外にでるところまでいくと、そのかたわらに立って顔をなめた全身を震わせ、ターンと啼きながら。
人間たちがけわしい岩場を降りて救助に駆けつけるには、その後さらに数分かかった。
ロッキーがいなかったら、手遅れになっていただろう。
リタとその家族は、ロッキーが自分にとって死ぬほど恐い行動をあえてしたのは、ひたすら少女への愛のためだったと信じている。
このことは、犬は人間に愛情を持たずひたすら自分の利益のために行動するだけだという学者の説に疑問を投げかける。
ロッキーは水に対して絶対的な恐怖心をもち、それは終生消えることがなかった。その後も水を恐がり、湖に足を入れさせることは、二度と誰にもできなかった。
そして誰ひとり、リタに対するロッキーの愛情を疑う者はいなかった。
リタが高佼を卒業し、帽子とガウンを着けて記念写貞にポーズをとったとき、そのかたわらには、いまやだいぶ歳をとったボクサーがいた。
笑顔の少女は犬に腕を回し、彼の片輪をしっかり握っていた。
かつてロッキーが彼女への愛情を究極の形ではっきりと行動であらわした日のように。
さて、アナタの愛犬はアナタが窮地に立ったときどんな行動をとるでしょう?
「犬があなたをこう変える」スタンレー・コレン著より引用
我が家の愛犬に聞きました。
ワタシが危険な目にあったら助けてくれる?
予想通り。
強そうだけど。
こそ泥か。
我が家に美談は似合わないようです。
愛情が足りなかったらしいので
愛情たっぷりゴハンで挽回できるかな?